許されないことでも。
それでも、好きな気持ちは変えられない。
『好きだ』と言ってはいけませんか?
『好きだ』と言って欲しいと、願ってはいけませんか?
佐藤優花=元気印な高一、十六歳。
×
一条寺蓮=クールな新任の高校教師、二十五歳。
二人のドキドキ(?)ラブストーリー。

「佐藤優花さん? 大丈夫?」
うわっ! 思わず見とれちゃった。
「あ、はい。大丈夫です!」
あたしは、『てへへっ』と頭をポリポリかきつつ、女の自分が同性に見とれていたことに赤面しながら、それでも元気に答えた。
人間、元気が一番!
『笑う角には福来たる』
それが、あたし佐藤優花のポリシーだもん。
あれ?
そう言えば、ここって……どこ?
高校の保健室だよね?
て言うか私、どうやってココに来たのか覚えてないし……なんでこの人、私の名前知ってるんだろう?
疑問がグルグル脳内を駆け巡る。
ううっ。
分からない事は聞くしかない!
あたしはごくりと唾を飲み込み意を決して、白衣のビーナスに質問を投げた。
「あの……先生? ここって聖佳高校ですよね? 私、一体どうしてここにいるんですか?」
あたしの質問に、ビーナスは一瞬驚いたように目を見開き、「あら。何も覚えてないのね」と、すぐに優しい笑顔を浮かべた。
ベットサイドの丸椅子に優雅に腰を下ろして、あたしのおでこに手を当てる。
瞬間、ふわりと鼻をかすめるほのかな香り。
同じフローラル系の香りだけど、『あの香り』とは少し違う。
「うん。傷は、大丈夫そうね。痕は残らないと思うわ」
「あの……?」
「ああ、ごめんなさい。質問の答えね。ええと、ここは聖佳高校の保健室で、私は保険医の磯崎要(イソザキカナメ)、宜しくね。それで、なぜあなたがここにいるかというと――」
「俺の鳴らした車のクラクションに驚いて、見事に地面にスライディングをかましたのさ」
低いトーンの、男性の声。
少し笑いを含んでいる。
不意に聞こえたその声に驚いて、あたしは声の主の方、保健室のドアに視線を投げた。
まず白い色彩が目に入った。
白い壁、ぐるりと引かれた木綿地の白いカーテン。
その下に覗く、古めかしい焦げ茶色の板張りの床。
だいぶ年期は入ってはいるけど、清潔な部屋だ。
あたしは、部屋の壁際に置かれた、白いパイプベットの上に座っていた。
かすかな消毒薬の匂いが鼻腔をくすぐる。
「保健……室?」
「大丈夫? 起きられるようなら集合写真、撮りに行く? 今ならまだ間に合うから」
涼やかな声とともに、シャッとカーテンが開いた。
姿を見せた声の主を見た瞬間、あたしは思わず息をのんだ。
真っ白な、透けるようななめらかな肌。
落ちかかる、色素の薄い柔らかそうな髪。
その豊かな髪を、頭の後ろでアップにしている。
猫を思わせる大きな二重のつり加減な瞳は理知的で、それでいて何処か少女のように悪戯そうな光が宿っている。
すうっと通った鼻筋。
真っ赤なサクランボのような柔らかそうな唇。
うわぁっ、美人。
それに、凄いスタイル!
きっとこういう人を『可愛い女性』っていうんだろう。
あたしは目に映るその女性の姿に、しばらく見とれてしまった。
ビーナス。
そう、創造の神に愛でられた、愛と美の女神。
白衣を着たその女性は、まるで『ビーナス』のように美しかった。
ゆらゆら。ゆらゆら。
気持ちいい――。
暖かいほっとするような感触。
何だか、懐かしい感じだなぁ……。
あたしは、まどろむような意識の下、花の香りを嗅いだような気がした。
香水のような人工的な匂いじゃない、ほんの微かな甘い花の香り。
何の花の匂いだろう? 桜じゃないよね?
桜……?
舞い散る桜の花びら。
青い空。
丘の上の校舎。
「入学式っ!!」
あたしは、自分が入学式に向かっていた事を思い出して、がばっと跳ね起きた。
瞬間おでこに鈍痛が走って思わず呻く。
「痛ったー」
「ああ、無理しないで、軽い脳しんとうだと思うけど、後でキチンとお医者様に見て貰った方が安心ね」
美しい、声。
そう正に凛とした澄んだ美しい声が、引かれたカーテンの向こう側から聞こえてきて、あたしは絆創膏の貼られているおでこをさすりながら、ゆっくりと周りを見回した。
身長160センチジャスト。
もうちょっと付くところにお肉が欲しい、元気印の十六歳。
肩口で切りそろえた、少し色素の薄い猫っ毛の癖のある髪が、走るリズムに合わせて、軽やかに跳ねる。
どちらかというと、痩せぎすなお子さま体型なので、走るには好都合なはずだけど、哀しいかな運動神経はお母さんのお腹の中に置いてきてしまったらしかった。
スピードは落とさずに、左手を少し上げてちらりと腕時計に視線を走らせる。
うわっ、やばっ!!
あと五分。
あと五分で、入学式が始まろうとしていた。
――ああ、完璧遅刻!
左右に激しく揺れる視界の中、遙か彼方に見える、丘の上にそびえ建つ校舎を振り仰ぎながら、『どうせ遅刻なら走るのやめちゃおうかな?』 と、チラッと思った時だった。
パパァーッ!!
不意に後ろから響き渡った車のクラクションの音に、思わずビクリと飛び上がる。
あたしの足は、反射的に一瞬、回転が止まった。
と、同時に足がもつれてもんどり打って、アスファルトの地面に向かい、スライディング!
「う、うきゃっ!?」
ガーン――。
正に、漫画のような効果音と共に、あたしの意識は、ぷっつりと途絶えた。
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Author:榊向日葵
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榊向日葵です。
切なめの、オリジナルの恋愛小説を、書いています。最近の記事
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